~4の日~
「ねぇねぇ、今日もヴィグのお家にあそびに行きたいんだけど」
「うん、いいけど……平気?」
「まだ行き方おぼえてないから、連れてって。」
アティ、おいらのお家が苦手で、ぜんぜん近よりたがらなかったのに、最近はうちに来たがるの、どうしてだろう?
「ヴィグはこのおうち、すぐになれたの?」
「おいらは昔から、このおうちしか知らなかったから……」
「ふぅん……」
アティのお家はとってもきれいで、落ち着いていられなさそうだった。買い物袋とか、どこにかくしてたんだろう?
「今日もおかし持ってきたんだよ。一緒に食べようよ。」
「え、うん、ありがと……アティもおやつに豆とか食べるんだ、これ、植えたら生えてくる?」
「やだなもう、これはジェリービーンズっておかしだよ。おいしいよ?ほら」
「……うん、甘い」
アティはおいらの知らないおかしをもってきて、いつもそれがわからないおいらを見ておもしろがってる。
おいらも、いろんなおかしが知れて楽しい。
「いつものおかしも、ヴィグのおうちで食べるとおもしろいね。」
「よそのおうちって、おもしろいよね」
アティも、ここになれてきたのかな?
ちょっと砂浜であそんで、公園まで送って、アティとわかれる。だいたいいっつもアティと遊んでるけど、今日も楽しかった。
アティとわかれて、ちょっとしてから。夕方。
日はまだ沈み切っていないのに、真っ暗ななにかに触れた。
真っ暗ななにか、思い出すとなみだがあふれてきた。こわいより、さびしい、かなしいときのなみだだった。
~5の日~
今日もいつもの公園にいった。日差しが気持ち良くて、木のかげでうとうと。すこし、寝ちゃった気がする。
多分、夢をみた。寂しくない真っ暗の中で、何かがきらきらしてた。
今日はアティは来なかった。アティも、毎日来るわけじゃない。今日ははやめにお家にかえった。
~6の日~
今日も公園に行って木のかげで、昨日の夢を見に行った。
夢中になって、きらきらを追いかけていた。きらきらは、昨日よりもたくさん。
「ヴィグ??」
「……あ、アティ、おはよう」
「おはよう、じゃないだろ、寝てたの?」
「うん、多分」
「こんなとこで寝てたら風邪ひいちゃうよ。」
今日はアティが来た。そのあと、アティのお家であったかい紅茶をのんだ。お庭でキャッチボールとかした。今日も楽しかった。
~7の日~
今日もまたいつもの公園にいった。アティが来るかもしれないし、きらきらの夢が見れるかもしれない。
きらきらの夢は、いつもここでしか見られない。
今日のきらきらは、いろんなかたちになってた。よくわからないかたちが沢山になった。
「ヴィグ!」
「あ、アティ、あそぼ!」
「うん!すごいねヴィグ、ぼくの一声で起きちゃうの。」
「音はよくきこえるから」
「ぼくより耳わるそうなのに。」
アティには耳がたくさんあるし、おいらよりよく聞こえるのかな?
「ねぇねぇ、今日はここでおかしたべよう?」
「うん……あ、今日のはクッキーだ。ずいぶん大きいけど」
「そうだよ!大きいから、大きいチョコが入ってるの。」
「ほんとだ、いっぱい入ってる……外で食べるのも、おもしろいね。」
「ピクニックに来たみたいだよね。あ、そうだ、今度は一緒にピクニックに行こうよ。」
「うん、お弁当用意しなくちゃ。」
今日もアティとあそんだ。それから、いつかピクニックに行く約束もした。今日も楽しかった。
~8の日~
今日も天気がよくて、公園に行った。何も考える前に、きらきらを見に行った。今日のは、おいらがいて、きらきらで、ぜんぶと繋がったかんじがした。どんどん繋がって、星空になった感じがした。宇宙に飛び出して、周りをぜんぶみた感じがした。
なんとなく、帰れと言われた気がした。
急にこわくなって、目をあけると、雨が降りそうな天気だった。こんな天気じゃ、アティも来そうにないから、お家に帰った。
~9の日~
今日は天気がとっても悪くて、外には出たくなかった。なんとなく目を閉じると、星空になった感じがまたした。星空には、いろんなかたちのきらきらが沢山あった。
そのうちまた、帰れとおこられた気がした。星空になって、きらきらをもっと見ようとするとおこられる。なにか、すごそうなものをかんじる。
なにか、よくないことを知った気がした。
こわくなって、寝れない
~10の日~
おいらがあれをみてから、ずっと天気がよくならない。きっと、見ちゃいけないものを見たから、世界がおこってる。
おいらがピクニックになんかいけないように、雷を鳴らしてこわがらせてる。
おいらのせいで、アティまでピクニックに行けなくしちゃった、どうしよう。
~11の日~
目を閉じるのがこわくて、寝れない。きらきらの夢につぶされる。
まどから外を見てみると、やっぱり天気がよくない。外の木が、ずっと雨にうたれてる。あんまりこわくなって、まども、カーテンも、ドアもしめたままにした。それでも、目を閉じると、またこわいものに出会いそう。
~12の日~
日がのぼったかもわからないくらい、ずっと天気がよくない。まだ雷をならして、こわがらせてくる。日付がかわったのかも、わかりません。
ちょっとまどから外を見たら、ついに木もおこらせたみたいで、よくわからなくなって、こわくなってた。
はやくなんとかしないと、でも、どうしていいのかわからない。
~13の日~
多分、お昼のくらい、天気は見てないけど、雷がなってるから、きっとよくない。
コンコン
「ヴィグ?、いる?」
「……」
アティの声がする気がした。よくわからないけど、いるのかもしれない?
「ヴィグ?……あけていい?」
「アティ?いまあける」
ドアをあけると、何かにおいかけられたようなアティがいた。アティを部屋にいれて、すぐにドアをしめた。
「やっとひとりでここまでこれたよ。最近遊んでなかったから、来ちゃった。」
「うん、アティ、今日はすごい服……虫がついてる」
「え?あ、これね、新しいお洋服だよ。これ、虫じゃなくて飾りだよ。ちょっとリボンが多すぎるかなって気がするんだけど……」
アティは虫が苦手だった気がするんだけど、虫もかざりだと思っちゃえば平気なのかな。
「ヴィグが電話にもでなくって、心配だったんだけど、平気?」
「うん、天気がよくないから、出ないだけ」
「そう?……今日ね、おもしろいジュースもってきたの。いっしょに飲もう?」
「うん?うん」
「これね、中のやつも食べられるの。」
「アティ、おいらもさすがに虫は食べないよ」
「やだな、これは虫じゃなくて、タピオカっていうんだよ。これ、タピオカジュースってやつなんだって。」
どう見たっておっきなハエか何かの入ったジュースを美味しそうに飲んでる、とっても飲む気が進まない。
おいらは世界をおこらせて、アティまでおかしくしちゃった。アティはおいらの友達だから、世界といっしょに、おかしくなっちゃったんだ。
「あれ、ヴィグこれあんまり好きじゃないかな?ごめんね?」
「ううん、ちょっと……ごめん」
「好ききらいはぼくもするもん、おこられるけど……ぐあいでも悪い?」
「ううん、平気、アティは帰らなくて、平気?また、雨が降るかも」
「え?ああ、そっか、そうだね、じゃあ……また明日、来るかも。」
「気をつけて、そこあけると、なんかいるから」
「ん?ちっちゃい虫?ここのはだいぶなれたから平気だよ。今日はひとりで帰らせて!またね?」
アティが部屋から出て行った。虫なんかより、ずっと怖そうなのがいたけど、大丈夫かな。
アティもおかしくなっちゃって、平気なのかな。
~14の日~
多分、今日もちょっと天気がよくない。きっともう、天気はよくならないんだ。
コンコン
ああ、アティだ、ぶじだったんだ、今日はどんな服を着て来たんだろう
ドアをあけると
「ア、アティ……?」
「11、137129237!」
もう、ことばもわからなくなっちゃったんだ
なにを言ってるのかわからない
あわててドアをしめた。アティじゃないのかもしれない。
「11、4283943945、510644732749374935531」
なにか言ってる、けど、わからない
コンコン
「137129237?」
「112444?」
コンコン
「45713324155?」
アティの声で、わけのわからない音がきこえる
あれはアティで、やっぱりおかしくなっちゃったんだ。
次はもうどうなるかわからない、どうしよう。
もうへやの外をみたくない。
ドアがあかないようにした。
~15の日~
どうしたらゆるしてもらえるんだろう?
だめ、たすけて?
~16の日~
おいらも、アティといっしょにおかしくなったら、きっとみんなおかしくなくなるんだ
おいらがずっとこのせかいにいるのがいけない、いるから、こわいんだ
でも、どうしたら行けるの?
~17の日~
ひらめいた、あの木にさわれば、なにかわかるにちがいない。あいつがさいしょにおかしくなった
ひさしぶりにそとをみた 空ってこんないろだったかな?
まどからならこわいやつらも入ってこなさそう、ここからでることにしよう
あれ?
ひさしぶりに、ながく目をとじた。
久しぶりの真っ暗だ。そうだ、ここでそのうち、きらきらが見えて、星空になって……
ゆるして、おいら、何も知らなかった。今も、ほんとは、何も知らないんだ。知ってないんだ。
とってもきれいな、星空、宇宙、なんだろう、よくわからない。よくわからないけど、とってもきれいな。おいらのまわり、ぜんぶにみえた。
お願い、ゆるして。これ以上先にはいかない、行きたくないよ。
おいらの知ってる、色の空が見えた。
おいらの知ってる、砂浜がみえた。
おいらの知ってる、木が見えた。
おいらの知ってる、アティが見えた。
「ヴィグ!」
おいらの名前だ
「大丈夫?どこか痛くない?」
おいらの知ってる、おいらの知ってる世界だ、おいらの知ってるアティだ!
「声は出る?うごける??」
みんな、元に戻ったんだ、よかった。
「あ、アティ、おかえり」
「あ!……ちがうよ、ここ、ヴィグのおうちだよ」
「うん?……そっか」
「大丈夫ヴィグ?落ちたの?」
「ううん、みんな、連れて帰ってきたの。アティも、木も……」
「……なんの話?」
「アティ、あの、すごいねむい……おやすみ……」
久しぶりに、ぐっすり……ねむ…………。